RECALLED


[1]


「ロッド、任務だ」
「はい」
「最近本社ビル周辺にアバランチとみられる集団が出没している。それらしき人
物を確認次第確保しろ」
「了解!」

ツォンから任務を言い渡され、速やかに自分の武器であるロッドを手にとった。
簡単な準備を終えると引き締まった表情でツォンの方を向いた。

「それじゃ、行ってきます」
「ああ…」

シュンとドアが開き以前よりも頼もしくなったロッドの背を見送る。しかし何故
だろうか、引き止めたくなったのは。

「ロッド」
「ん?」
「…いや、気をつけてな」
「はい」

心配性だとロッドは思ったのだろう。ニッコリ笑いかけてから扉の向こうに消え
ていった。

普段ならば、任務への出掛けにロッドからえも言われぬ愛くるしい笑みを投げか
けられるなどという事態があったならば仕事中といえども愛しさが込み上げて堪
らなくなるのだが、今のツォンの心には、説明しがたい何かが引っ掛かっていた
。ロッドを行かせてはいけないような、何か。自分は主任で、ロッドは任務なの
だから行かせていけないということはあるはずがないのに。
ツォンはそれが凶事の予兆でないことを祈って、ブラインドの隙間から見える窓
の向こうの、ミッドガルの濁った空を見上げた。

――その時、この空が澄んだ瞳のように碧く晴れていたならば、痛みを伴うこと
もなかったのかもしれない。





[2]


(ミッドガルでの任務も久しぶりだ)

ここのところ出張続きであったロッドは社員用駐車場のバイク置場を横目に見な
がら歩いていた。
昼でも薄暗いこの場所では電球による明かりが光源で、雰囲気はまるで夜か地下
のようだ。鼻につく排気ガスの刺激臭は、かつて仲間とバイクを盗みに入った時
を思い出させる。

関係者以外立入禁止の看板が目に入った。
この先だった。
神羅社員といえども特別許可の下りた人間―例えばタークスなど―しか入ること
が許されぬ、バイク好きならば一度は憧れる絶対の聖域。

酷く懐かしい。

己の若さと未熟さが。
昔の仲間たちは今頃何をしているのだろうか。自分はタークスとして忙しくして
いるわけだが、連絡は取っていないし消息もさっぱりだ。

会いたい、かな。

出口が見えると同時に、人影が目に入った。顔はよく見えないが、姿形からして
男だ。
ロッドは強い視線を感じていた。その男が自分をじっと見ている。あまりにも見
ているので無視する気にもなれず、ロッドもその男を目を凝らして見た。

「ロッド、か…?」
「え?お前……!」

それは昔からの友達で、ロッドがリーダーを務めていたギャングの仲間だった。
短かった黒髪は肩に付くあたりまで伸びていて、なんだか昔より男前になった気
がする。

「久しぶりだな!」
「お前は変わらないな」
「これでも昔より強くなったんだぜ」

「神羅でしっかりやってんのか?」
「まぁな。あ!悪い、俺今仕事中なんだ。道草食ってると上司にどやされるから
もう行くな」

まだまだ話したいことはたくさんあるけれど、タークスのプロフェッショナリズ
ムは棄てられない。

「そっか。すっかり神羅社員って感じだな」
「へへっ。そうだ!最近ここらに爆弾仕掛けたりする危険な奴らが出てるらしい
から一応気をつけろよ?」

アバランチは今の所民間人に被害を出してはいないけれど、このミッドガルの中
心部で爆破なんて起こされたら危険じゃない保証はない。

「へぇ……せっかく会えたんだし、もっとゆっくりロッドと話したかったな」
「悪い、今ごたごたしてて忙しいんだ。また今度、俺が休暇のときにでも」
「お前、神羅なんか入らなければよかったのに」


じゃあまたと言ってそのときは別れた。
どうして気付けなかったのだろう。会話に滲み出た不審な点に。そして彼のその
瞳の寂しげな色に。
"また今度"なんて二度となかったのに。



[3]





本社ビル周辺だけでなく、ミッドガルの端から端まで走っても特別アバランチと
思しき人間も確認出来ず、ロッドは本部へと戻った。

「ただいまー」
「ロッド…」

ツォンはロッドが無事に戻ってきたことにほっとした。しかしそれもつかの間…

「はぁー…」
「どうした?」

長い溜め息を吐いたロッドは浮かない顔をしている。何かあったのだろうかと心
配になる。

「何も収穫ナシ…俺ミッドガル中走り回ったんだぜツォンさん」

デスクに突っ伏して上目遣いでツォンを見る様はまるで誘っているかのようにも
見える。本人はまったく自覚がないのだから困り者だ。

「…そういうこともある。頑張ったな、ロッド」
「うん、頑張った俺」

ロッドの返答に思わず笑ってしまう。
しかし、何もないというのもおかしいとツォンは思った。それに越したことはな
いのだが、アバランチの行動が激化している今、何もない可能性は薄い。先刻感
じた嫌な予感もある。

「本当に、何かいつもと違ったことはなかったか?」
「ない、と思うけど。…あ!」
「何だ?」
「懐かしい奴に会ったんだ。俺の昔の仲間で友達」
「…何処で?」
「えーと、会社の駐車場」

眉間にしわをよせ切羽詰まった様子のツォンはどうしたというのだろう。そうい
えば朝も少しいつもと様子が違ったような。

「どうしたんだツォンさん朝から心配症候群?」

ああ、それはいつもかとロッドが一人納得しているとツォンがあまりにも唐突な
一言を放った。


「そいつがアバランチだ」


「…え?何言ってるんだよ」
アイツがアバランチなわけないだろ?なんでそんなこと言うんだ?

「ロッド、忘れたのか。社員の駐車場には社員しか入ることが出来ない。そんな
ところに居る部外者は明らかに不審人物だ」

確たる理由を正確に述べられては反論のしようがなかった。信じたくは、ないの
だけれど。

「…でも……なんで………くそッ」

どうしようもない歯痒さと自分の不甲斐なさに、強く握り締めた拳で机を叩いた


[4]





「――以上がタークスからの報告です」
「ふむ、アバランチめ、社内に侵入して妨害するつもりか?…ではタークスに命
令を下す。即刻奴らを始末しろ!」
「…了解致しました」





「――社長命令だ。我々にアバランチの始末が任された」
「ツォンさん、それって…」
「そりゃひどいな、と」
「解ってるな、ロッド。タークスとして何をすべきか」
「…」



タークスは、会社への侵入ルートを全て塞ぐため、侵入口に全タークスを配置す
るという体制に入った。

「暇すぎるぞ、と…」

タークス内の規律が乱れそうな無謀な策にも思えるが、近いうちに動きがあるだ
ろうというツォンの考えは当たっていた。





(来たか…)
「アバランチだな?」

ツォンはカチリと銃口を目の前に現れた侵入者へと向けた。見たところ独りのよ
うだ。もしかしたらそれぞれ別個に侵入を試みているのかもしれない。

(武器は…ナイフか)

今のところ攻撃してくる様子はないが、気は抜けない。いつでも動けるように身
構えていると、男は場にそぐわぬ呑気な口調で話し掛けた。

「あんたロッドって知ってるか?」
「…私の部下だ」

そして恋人だ、とはさすがに言えなかった。よって笑い出すような場面ではない
はずなのだが、その男は何か思い出したように笑い出した。

「あははっ、確かに…この前会った時ロッドが言ってたんだ。"上司にどやされる"
って。堅物そうだし、それってきっとあんたのことだろ」

「お前たちの目的は何だ」
「ククッ、知ってるだろう?神羅の破壊だ」

「ならば私はお前を殺さなければならない」

「…なぁ、あんたたちタークスっていうんだろ?タークスってのは人を殺すのか
?」

「…場合によってはやむを得ないこともある」
「それは…哀しいな…」

その一瞬に垣間見たあまりにも寂しい表情は泣き出しそうにも見えた。

そのとき、銀色がきらりと光りツォンの肩口に突き刺さった。咄嗟に躱すことが
できたたものの、並以上のナイフの使い手のようだ。
手加減は無用と判断したツォンは威嚇の為、相手の足元と顔の両脇に躊躇いなく3
発打ち込んだ。

「殺す気満々かよ…」
「いや、まだ殺せない。他の仲間はどうした?」

「そう簡単に教えるはずないだろ」
「そうか、なら仕方ない」

再び銃声が響き、銃弾が目横を走り過ぎた。目元の髪の毛が焦げた臭いがした。
この時男は悟った。
先程感じた威嚇の際のプレッシャーは、銃とナイフでは銃が有利でナイフが不利
であるように思われることなどではないのだ。今自分の目の前に立っているこの
男は自分の敵う域の者ではない。
則ち、もう逃げ場が無い。

「侵入ルートは全て塞いである。私に連絡が無いということは他の人間はまだ侵
入していない。先にお前がルートを切り開いておくつもりだったのかもしれない
が、運が悪かったな」
「くっ…」
「聞いた方が早いと思ったが、どっちにしろ今お前を殺しても何も連絡が無いの
を不審に思ったお前の仲間がいずれここにやってくるだろう」
「やっぱり神羅は最悪だな…」

モンスターならばまだしも人間を殺すのはいつだって不本意だ。ましてやロッド
の昔の仲間。ロッドは何と思うだろうか。きっと苦しむことになるだろう。

カチャリと銃口を突き付けながら頭の中を駆け巡るのはロッドのことばかりで、
次々に沸き上がる感情をいくら押し止めようとしてもとめどなく。

「俺は最後にロッドに言ってやったんだ。"神羅になんか入らなければよかったの
に"って」
「そうか…そうかもしれないな」
「でもあいつ"今の仕事に誇りを持ってるから"って言ったんだ」

ロッドはツォンが思っていたよりもずっとタークスとして成長していた。
今この引き金を引くことを躊躇っている自分は、タークス失格なのかもしれない
。あまつさえ、このまま始末したことにして見逃したいとも思ってしまう。幸い
この件はタークスに全て任されているので、しようと思えば出来ないことも無い
。しかし会社のリスクを考えると危険だ。

「本当に悔しいよ。大切なものは全て神羅に奪われてしまう」

大人しかった彼はぼつりと一言零すと突如何かを投げ付けた。空間が強く光った
瞬間、ツォンは爆風に身体を吹き飛ばされた。




気が付くと辺りは瓦礫となり、炎がちらちらと燃えていた。この規模ならばビル
全体に直接の影響は少なそうだが、轟音が社内に響き渡ったことだろう。

ツォンは傷付いた身体を引きずり、瓦礫に埋もれている人影に近付いた。

「っ大丈夫か…!」
「…ッ……あんたは無事だったか…」

頭からの出血が酷い。このままでは非常に危険だ。

「死ぬな!」
「…殺す…じゃ…なかったの、か…」

確かに矛盾していた。しかし助けなければならないと思ったのだ。死なせたくな
いと思ってしまった。きっと今すぐになんとかすれば助けることができるはずだ

会社の命に背こうとするなど何事か。叱咤する気にもなれないほどに甘すぎると
ツォンは苦笑した。


まったく、自分は甘かった。


重傷の男は手元に転がっていたツォンの拳銃を弱々しく握ると自分に向けて引き
金を引いた。

「な…っ」
「これで…いい……ロッドを…よろしく、な…」



絶句するツォンと裏腹に彼は穏やかな表情で言い遺した。泣いているのにそれは
酷く優しくて、硝煙の香が酷く鼻についた。



fin.



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大好きvvダーリンマリガト!
スゴイあたし好みです、ストライク
せつねー!救われない話好物です
救われてるようで、救われてない二人
心にキュンときます!たまらん!

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