COLD PULSE
魔晄都市ミッドガル
世界広しといえど是ほどまでに極彩色を放つ都市は他に見ない。
魔晄から作られるエネルギーによって世界の中心として君臨した神羅の、
人々の夢や希望、同時に憎しみや悲しみを内包し破綻しそうなバランスを保って
それでも尚休むことなく廻り続ける都市。
完璧に計画されて作られなかったミッドガルは街ごとに違った少し乱雑な造りをしているが、
それでもこの円形のミッドガルの中央に建てられた本社の社長室からの眼下の景観はきっと素晴らしいだろうと思った。そこに座るすれ違ってしまった親子を思い浮かべながら。
果てが見えない漆黒の天は突き抜けていて俺は独りだと思った。
きっと俺は死んでいくのだろう。
この眩いネオンに見守られて、こんなにも人の溢れたミッドガルで誰にも知られることも無く。
生まれたスラムはこのミッドガルを乗せた巨大なプレートの下
今は何の因果か文明人としてこのプレートの上で生活している
そのプレートの所為で太陽も、空も見えない下の住民は上を憎んでいて
プレートの上のエリートは何も脳が無いと思い下の人間を軽蔑した。
どちらの立場でもあった、そして今ある俺はどんな顔して此処にいればいいのだろう?
いつか俺も、会社にいる成り上がりの男の様に下の人間を馬鹿にするのだろうか、
まるでコウモリの様な自分が可笑しくて俺は、少し泣いた。
「お仕事終了、と」
ずるずると落ちていた思考が男の声によって浮上させられた。
近付いてくる人影に俺は顔だけそちらへと向けた。
「・・・・・レノ」
そこには血濡れのロッドを担いだレノがいて、少し離れた所で立ち止まった。
「終わったんなら、早く来いよ 大変だったじゃねーか」
不機嫌そうな声色に俺は少し苦笑した。
(俺より何倍も強いくせに)
立ち止まっていたレノが歩き出して俺の直ぐ傍まで来て目が合うと驚いた顔をした。
「炯、お前酷い顔してるぞ」
レノにそこまで言われるほど俺は今酷い顔をしているのだろうか
無理矢理笑おうとした顔は余計に引き攣っただけだった。
「死んだのは、お前じゃない。ソイツだ」
(わかってるよ)
レノの視線の先には俺の真下に横たわる死体。
既に人の温もりは無く、地面と同化したみたいに冷たい身体が不気味にも思えた。
見慣れた光景だと思った。いや、見慣れた筈の光景だった。
スラムじゃ道端に餓死したり、凍死した人間の死体が転がってる事も当たり前で
「またか、」其れくらいの気持ちしか覚えなかった。
ならば、俺は今一体この目の前の死体に何をそんなに怯えるのだろうか。
この死体と、スラムの死体と、何が違うのかなんて
(俺が、殺したのだ)
自覚した途端、襲ってくる何とも言い得ぬ恐怖に俺は慄いた。
力を込めた筈の手からロッドが抜けて地面に金属音を立てて落ちた。
情けないくらいに俺の手は震えていて、干上がったみたいに喉が渇く
「おい、炯」
レノが不審そうに声をかける。
「大丈夫」と動かした筈の口は実際には何も発する事は無く、息を詰らせた様な音を出しただけだった。
初めて与えられた暗殺の任務。
出来ると思った。タークスになる為の訓練でも何度も教えられた暗殺。
一発で確実に殺す方法。そして感情を持たない事 そしてもう一つ。
痛いくらいに解ってたつもりだった。
真面目に受けた事無い数少ない講習で何度も何度も繰返し言われたソレを。
甘かった。
もしかしたら辺りに漂う血の匂いに少し酔っていたのかもしれない
確実に急所を狙ったその一撃で任務は呆気なく終わると思われた。
(決まる)
そう思って振りかざしたロッドが男にめり込んで嫌な音がする。
足元に男が倒れてその死亡を確認しようとしゃがんだ時、動かない筈の身体が動いた。
力なくゆるゆると伸ばされた手が俺の腕を痛い位に掴んだ。
「ひっ・・!」
驚愕して声を上げてしまった。
「死・・・・・にたく・・・な・・・い・・・」
それは途切れ途切れではあったがはっきりと解った。
『死にたくない』
愕然として俺は男を凝視してしまう。眼を合わせてはいけないと、言われていたのに。
俺に向けられた男の眼は死を前にした恐怖をありありと浮かべて
刹那、男の体からプツリ、と力が抜けて掴まれた腕を俺は振り解いた。
それから俺はその場から動く事が出来なかった。
『死んでたまるか』
明日の食事すら当てもない。そんな日々を過ごした頃を思い出した。
自分を見下す大人達に好き勝手に暴行され地面に這いつくばっても、歯を食いしばって生きていこう、そう思ってた。
漠然と近くに横たわっていた死に恐怖し、必死で生にしがみついた
あの頃の自分を、男に重ねてしまう。
「感触が、消えないんだ」
カラカラの喉から無理矢理声を捻り出した。
男に掴まれた左手がまだその痛みを覚えている。
「死にたく・・ないって言った、その目が」
強烈に焼きついたそれが頭から離れない。
フラッシュバックして何度も何度も繰り返される。
「炯・・・甘えてんな。其れを知ってタークスを望んだのはお前だ
今此処で泣いたりするなら、死ね。」
レノの表情は、逆光で見え難かった。
声色で怒ってるのは、なんとなくわかった。
「タークスが敵の為に涙を流すのか?
俺たちは死神だ。この真っ黒な喪服で死を贈る
慈悲深い神様なんかじゃねぇ、勘違いしてんなよ」
「っ・・・解ってる!」
レノの言葉は、正しくて、痛かった。
タークスになる覚悟をした以上、俺はそうあるべきなのだ。
現実と理想の埋められない落差に俺は初めて直面して、己の弱さを露呈する。
強くありたい、
そう願った筈なのに。
スラムで這い蹲って誰よりも「生きたい」と願った自分が、今、生きようとする命を刈り取る。
「レノ、わりぃ 背中、貸して」
チッと舌打したレノがそれでも背中を向けてくれるのが嬉しかった。
「後、一分待って」
何も言わないその背中が俺を受け入れてくれた。
きっとこれから俺は多くの命を刈り取るだろう。
そしていつか下の人間を笑うようになって、殺す事にも何も覚えなくなるかも知れない
それでも、今日という日を忘れないだろうと思った。
俺が人間からタークスになった日を、決して
そしてタークスとして死んでゆくであろういつかに俺は独りだろう
目の前の殺した男を思いながら巨大なミッドガルのネオンの下、ちっぽけな俺は静かに死んでゆく。
レノが俺の為に涙を流したとしても、俺は独りに違いない。
それは根拠のない、確信だった
レノの背中の温かさに泣きそうになる。
ああ、この人は生きている。
そう思える全てが無性に恋しいと思った。
弱くて、愚かな俺を受け入れてくれるその背中、そしてレノ、が
レノに気付かれないように、俺はほんの少しだけ、泣いた
この瞬間、人間の俺は死んだように感じられた
「好きだよ」
彼に恋したのが倒錯した感情だとしても良い
強さへの憧れか、弱さからの依存かもしれない
それでも
蚊の鳴くような声で、伝わればいいと願った。
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定期的にこうゆう自己満足が書きたくなります。
凄いすごーーーい楽しくなくてごめんなさい。
自分は好きな話です。
タイトルは「冷たい脈」死人のイメージで、ドウゾ<何を
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