Equivalent Exchange


誰かの大切なモノを傷付けた時、一体どうすればいい?
自分の大切なモノを傷付けられた時、一体どうすればいい?





俺は今、柄にもないほどに焦っている。

「……あらららら」

俺の直ぐ目の前には、残骸を撒き散らして転がっているバイクが一台。

「やっちまったぞ、と……」

そのバイクに乗っていた人間…そう、俺は無事。掠り傷を負っている程度。
それに対して、このバイクの壊れようときたら…。
ミラーやライトは粉々。車体はボコボコに凹んで傷だらけ。
よくある事故だ。
スピードを出し過ぎていた為か、カーブにさしかかった時に曲がりきれなかった。
途中でバランスを崩した俺は地面に転がり、バイクは倒れたまま勢いに任せてガードレールに激突。
人通りの少ない道だったのが不幸中の幸い。
任務を終えて直帰する予定だった。時間に追われているわけでもない。
被害を被ったのは俺だけ…のように思えるが、問題が一つ。
このバイクの所有者は俺じゃない。

 −数時間前−

「おーぃ、炯」
「なんだよ」
「バイクのキーどこだ?」
「あ、スーツのポケットかも。なんで?」
「一日貸せよ、と」
「はぁ?!」
「今日の俺の任務、現地直行なんだよなぁ」
「自分の車で行けばいいだろ?」
「あいにく、レノ様の愛車は本社の駐車場でお休み中だぞ、と」
「俺だって仕事あるのに」
「本社ぐらいメトロで行けよ。俺の任務地は列車で行けねーからな、と」
「う〜〜〜っ」
「ケチくさい事言ってないで、さっさと鍵渡せ」
「………ほら、鍵」
「サーンキュv」
「傷一つでも付けたら許さねーからな?!」
「わーかってるって」

 −現在−

傷一つどころの話ではない。

「こりゃ、マズイ…」

普段は車を利用している自分。バイクについて特別に詳しいわけではないが、一つだけ確かな事がある。
これはただのバイクではない。炯のバイクなのだ。
一ヶ月の給料の大半をバイク改造費用につぎ込み、欲しい部品を手に入れる為なら、どれだけ遠方に居ようが体力尽きた状態だろうが、店へと向かう。
言うなれば単車オタク、単車馬鹿。
そんなヤツの愛用のバイクなのだ。どれほどの価値があるのか正確にはわからないが、とんでもなくレアで高価な代物…それだけはわかる。
あぁ…出来れば目を逸らしたい。現実から逃避したい。
だが、あまりにも無残な姿を晒すかつての入魂の一品から目が離れない。
弁償する?
アイツが大事そうに毎日磨いているこのバイクを、金で片付けるのか?
金だけで済む問題じゃない。そんな事わかっている。
正直に言って頭を下げるか。

『悪かったぞ、と…』
『…あれだけ…傷一つ付けたら許さねぇって言ったのに…』
『……炯』
『……『デス』のマテリア援護を要請する』
『?!』

ダメだ。殺される。
………。
でもよぉ、俺は無事だった訳だし…

『炯…俺とバイクどっちが大事だ? 俺は無事だったわけだし…許してくれよ、と。もう会社で犯したりしねーからさ。な?』
『バイクの方が大事だ、バカ! 死ね!!』

火に油注いでどうする、俺!
困った。
………。
そうだ、ルードがいた!
困った時は相棒に頼れ!

『現在、電波の届かない場所にあるか、電源の入っていない可能性が…』

こんな時に限って、使えねぇ!!

そこらの女なら、優しく抱くだけで機嫌直させる自信はあるけれど。
生憎、そんな事で機嫌直すようなタマじゃねぇし…。
思い付く言い訳はどれも俺が殺されて終わるエンディングにしか結びつかない。
嗚呼…神様、仏様、古代種様。誰でもいいから、どうにかしてくれ。





とりあえず…ボロボロの車体を引き摺って、マンションまで帰って来た。
言い訳なんてどれも通じない。
正々堂々、正面から謝って『デス』でも何でも喰らってやる。
一応、防具に『デス』のマテリアだけセットしておくか。

「タダイマ…」
「あ、おかえり。遅かったな」
「あぁ…その……炯、ちょっと下まで来てほしーんだけど」

マンションの脇にある駐輪場の奥にて、愛車の劇的ビフォアアフターをお披露目した。

「………」
「その…」
「………」
「えーっと…」
「………」
「悪かったぞ、と…」
「………」
「……炯?」

顔を覗き込んで、面食らった。
大粒の涙を惜しげも無くボロボロと零して、自分の愛車を見つめているのだから。
よ、予想外だ。
攻撃魔法なり何なり仕掛けてくるとばかり思っていたから、このパターンの対処法は考えていなかった。
ど、どうする?
黙って泣かれる。一番罰が悪い。
怒りのままに殴られる方が何倍もマシだ。

「炯…ごめんな?」

頬を伝う涙を拭おうとしたら避けられた。
自分の手の甲で顔を擦り、傷だらけのグリップをそっと掴むと、重い車体を引き摺るようにガレージへと歩みを進める。

「手伝うぞ、と」

駆け寄って声をかけたら、俺を見向きもせず首を振った。
ただ黙って示される拒絶。

「……っ」

何も言えばいい?
何をすればいい?
触れる事も、手を貸す事も許されない俺に、一体何ができる?
ボロボロの単車を引き摺る背中。足取りがおぼつかない。
放っておけない。でも、俺に何が出来るのだろう。





そして、炯の機嫌を取ろうと必死になる俺の生活は始まったわけだ。





「炯! お前が見たがってた映画のDVD借りておいたぞ、と」
「………」

「この報告書は俺が作っておいてやるぞ、と」
「………」

「お前の好きな洋菓子屋のプリン、冷蔵庫に入れておいたから食っとけよ、と」
「………」

何を言っても、何をしても、シカト続き。
それでも必死になって、炯の機嫌を取ろうとする俺。
そんな俺の姿を見て他のタークスメンバーが、

「不気味! レノさん、何か変なモノでも食べたんじゃないの?」
「炯があそこまで無視するなんて、余程の事があったんですよ」
「フッ。食べ物を与えれば大抵の機嫌は直るのにな」
「……哀れだな、相棒」
「任務に影響が無ければ私は構わないが、確かに不気味な光景だな」

なんて言っているのは当然知ってる。
今の自分が自分らしくないって事は、俺が一番わかっている。
女が相手でもこんなに必死になった覚えは無いぞ、俺は。
レノ様ともあろう者がなんてざまだ。みっともねぇ自分にイラ立ってくる。
いい加減なんとか言えよって、何度も逆ギレしかけた。
それでも、仕事を終えて帰宅した後、ガレージに篭ってひたすらバイクを直しているアイツの姿を想像すると、負い目の方が勝ってくる。
何度も手伝おうとしたが、最初に拒絶された事を思い出しては、ガレージに向かう足が止まった。
今日も一晩中、寝る間も惜しんで愛車の修理を続けるのだろうか。
俺が事故ってから、そろそろ一週間だ。
珍しく今日は1日デスクワーク。
運が良いのか悪いのか、炯も同じく本部にいる。
こういう日に限って相棒は別任務、ツォンさんは会議中。
本部に二人っきり…普段なら好き放題してしまうほどオイシイ機会。だが、今のこの関係でこの状況はただの生き地獄。
データ作成のきりがついた所で、気分転換がてら屋上へと向かった。
屋上への階段を上ってドアを空けると先客が。

「よぉ、レノ」
 
いや、俺は何も見なかった。

「………」

黙ったまま今来た道を戻ろうとすると

「待て待て待て待て! 俺を見た途端、帰ろうとするなんて酷いんじゃねーの?!」

慌てて俺を引き止めるソイツ。
なんでお前がココに居るんだ? ソルジャー1stザックス。

「今てめぇと話す気分じゃねぇんだぞ、と」
「冷たい事言うなよ。それとも炯にシカトされてるから機嫌悪いとか?」

今、何て言ったコイツ。

「……なんで、てめぇが知ってやがる」
「俺の情報網を甘くみるなよ♪」
「……」

何でもお見通しなんだよ、俺は
…とでも言いたそうな勝ち誇った表情だが、どうせ任務がかち合った他のタークスから聞いたんだろう。
余計な事を余計な奴に言いやがって。一体どいつだ、ちくしょう。

「俺が力になってやるよ!」

お前のその台詞は親切心から言っているわけじゃないだろ。
ニヤニヤ楽しそうに笑ってやがるそのツラが証拠だ。

「他人の世話焼くより、てめぇの所はどーなんだよ、と」
「俺の所は安泰よー? この前もクラウドが…」
「惚気話聞かせたいだけなら、俺はとっとと帰るぞ」

こっちは一週間、目すら合わせてもらえねーんだ。
目の前の馬鹿を睨み付けて、背を向けようとする。

「まぁまぁまぁ。俺に任せとけって。炯は今日任務に出てんのか?」
「あん? 本部にいるんじゃねーのか?」
「じゃぁ屋上に呼び出すから、お前はちょっと隠れてろ」
「お前、余計な事…」
「心配するなって! お前等の仲が悪いと、うちのクラウドちゃんが心配するんだよ。だから俺に全て任せろ!」

その自信は一体何処から湧いてくるのか。クソ爽やかな笑顔で颯爽と出て行きやがった。
お前が何言っても無駄だと思うけど。
それでもまぁ、少しでも収穫はあるのかもしれない。
俺には、責める言葉も怒りの言葉も何も吐き出してくれないのだから。
 
そして数分後。
炯を連れてザックスが屋上へやって来た。
ちょっとした世間話から始まって、やがて本題へと入る。

「そういえば、最近レノと一緒にいる所見ねぇけど何かあった?」
「え……」

二人っきりで話しているザックスと炯。
出入り口の裏に隠れてこっそり聞いている俺。
……ダセェ。
クソ女々しい自分に嫌気がさしつつも、この場に残る事を選んだのは自分。それがまた余計にイラ立ちを増幅させた。

「なんとなく、どーしたのかなーって気になっちゃって」
「………」

大口叩いたんだから、それなりの情報は聞き出せよ。

「あ! 言いたくないんだったら、」
「いや、俺…ちょっと悩んでて……うん、聞いて欲しいかも…」
「……悩み?」

………。

「1週間くらい前に、レノが俺のバイク乗って事故ったんだ」
「え、マジでか?」

……白々しいぞ、お前。

「それで、レノは擦り傷程度だったんだけど、俺のバイク滅茶苦茶に潰れちまって…」
「あぁ、なるほどな……それが許せなくて気まずいまま…?」
「………」

そうだよな…。
まだ許せるわけねぇよな。

「最初は、許せなかった…だけど……」

だけど…?

「後から思い出したんだ。あのバイク、新しい部品に換えようと思って…前日にバラしてて…」
「へぇ?」

そういえば、そうだったか…?

「夜遅かったから朝に持ち越そうと思って、ブレーキ調整とか甘い状態で…」
「それって…」

まさか…

「その事忘れてて…そのまま…レノに貸しちゃったんだ……」
「……うわぁお」

そ、そうか、俺がスピード出し過ぎてた訳じゃねーんだな。
なるほど、なるほど。
そうだよな。
あの程度のカーブで運転ミスるレノ様じゃねぇよな。アハハー……って笑って済むわけねーだろっ!
アイツは俺を殺す気かっ!
これを聞いて黙っていられるほど、俺は温厚でも心が広いわけでもない。
二人のもとへ駆け出そうとしたが

「…レノが…生きてて良かった……」

震えるアイツの声を聞いて、足が止まった。

「俺のせいで死んでたかもしれない…そう考えると怖くて。俺、謝ろうと思ったんだ! だけど、ボロボロになっちまったバイク思い出すと、やりきれなくて…」
「あぁ…レノにバイク貸さなきゃ、何も起こらなかったわけだからなぁ」

…それはそうだが。
何故だろうな。
お前に言われるとムカつくぞ、ザックス。

「…っ…レノは、それから…ずっと俺に気遣ってくれて、優しくて…俺、酷い目にあわせたのにっ……謝りたいのは俺なのに、バイクの事思い出すと…もう頭の中グチャグチャになっちゃって…」

あぁ。
泣いてる。
嗚咽交じりのアイツの本音。俺の心臓を締め付けてくる。
そんなに泣くなよ。
実際にバイク壊したのは俺だし、大してケガもしてないし。
責めたくても責めきれなくて1週間ずっと悩み続けていたお前を、今更責めるなんて事は出来ねーよ。

「泣くなよ、炯…。お前さ、ずっと一人で悩んでたんだろ? レノだって大してケガしなかったわけだしさ。お前がそんなに苦しむ必要無いって」

…………。
だから…。
それは俺の台詞だからお前が言うんじゃねーよ、ゴンガガおろし野郎!

「だってほら、元はと言えばレノが悪いんだろ。お前のバイク借りようとしたレノが悪い! レノがバイク借りて行かなければ、炯はバイクの調整が出来た。つまり、バイクは壊れなかった。今回レノが事故にあったのはアイツがドジなせいだ。きっとバイクのせいじゃない。だから炯が気に病む必要は無いって!」

誰がドジだ、誰が。
二人がいる場所へ歩き出す。いい加減、あの単細胞に消えてもらうか。
とりあえず、これからの予定。
仲直りのキスして、バイクの修理手伝って、弁償出来る範囲の物は弁償して終わり。
これでチャラだろ。ミスはお互い様。等価交換だ。

「……そうだよな…俺が気にする必要は無いよな」
「へ?」

 は?
 
自分の耳を疑った。
俯いてベソ掻いてた…はず。
先程までのしおらしいお前とは打って変わって、何なんだ、顔を上げたお前のその『真実に気づいちゃったよ、俺』とでも言いたそうな晴れ渡った表情。
二人の元へと向かっていた足が止まった。

「レノが事故った原因が俺のバイクとは決まってないしな」
「あー…まぁ、そうだ」

おい。

「元はといえばレノが悪い! バイク貸す時、俺は嫌だって言ったし!」
「うーん…」

…ぉぃ。

「最近仕事手伝ってくれたり、飯作ってくれたりで便利だし、レノにはしばらくこのまま黙ってようかなっ!」
「えーっと…炯?」

………。

「そうだよな! レノの日頃の勝手気侭な暴君ぶりを考えれば、俺がちょっとぐらいイイ思いしても許されるよなっ」
「炯ー? ちょっとストーップ」
「なに?」
「それ以上余計な事を言わないうちに…あちらを御覧下サイ…」
「え?」

二人が居る位置から数メートル横。
ザックスが指差す方向に視線を動かして、1週間ぶりに俺と目が合った炯。

「ぅげっ! レノ?!」

1週間ぶりのアイコンタクトは、全く感動的なものにはならなかった。
顔を真っ青にさせる炯。俺が今、どんな気分でこの場にいるか伝わってるようだな。
炯と俺を交互に見て、ポンと手を打つザックス。

「ぉおっと! クラウドとの待ち合わせの時間だ! 仲直りしろよ、二人ともっ」
「はぁっ?! ちょっと待てよザックス! アンタ俺の味方じゃねーのかよっ!」
「いや、俺はクラウドの味方だから! あとは若い二人に任せるぜ、じゃぁな!」
「ふざけんなっ、ちょっ、ザックスー!!」

涙目でザックスを呼び止めるが、颯爽と奴は去って行った。
その間に歩みを進めて先程までザックスが居た位置、炯の目の前に立つ。
俺の表情を見ないように、恐る恐る…といった感じで炯が口を開いた。

「……えーっと、レノ…どこから、聞いてた?」
「そうだな。簡単に言えば『最初から』かな、と」
「そっか、そっか…最初からかぁ…」

青ざめた顔、額には冷や汗、精一杯の引き攣った笑顔で二言。

「レノ、大好きっ」

1週間。
お前に振り回されて得たのがコレ。
なるほど、なるほど。
生憎そんな言葉で清算出来るほど俺の1週間は安くねぇ。

「帰ったら、夜明けまで犯す」

コレでチャラだろ。等価交換だ。
怒気を抑えないまま、威圧感たっぷりの微笑で御返答。

「ちょっ、何言ってんだよ! 元はと言えばレノが事故るからっ!」
「お前が夜のうちにバイクの調整しておけば良かったんだぞ、と」

一歩も譲らないのはお互い様だろ。
自分の正当性を主張しあう闘いは真夜中まで続くだろうから

「俺は悪くない!」
「俺だって悪くねーぞ、と」

 仲直りのキスは夜明け前までお預けだ。





−END−


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司晶さまから頂いた相互お礼!
すごいよもうボリュームも内容もハイレベルで
おなかイッパイデース。ごちそうさまでーすw
一番悶えたのは「レノ、大好き」ですね!
画面の前で自分が告白されたキモチになったww

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