彼は極度に興奮したり、悲しくなると決まって俺を殴った
職場で意外に後輩に優しい良い先輩である一方で

なんで一緒にいるの?
あの人頭おかしいでしょ、そう人は言った
どうして俺がレノと一緒にいるのか?
屹度足りない俺の言葉じゃ誰も理解しないけれど、
それでもいいなら


それだけ


人を殺した後のレノには近寄ってはいけないのだと、
俺が知ったのはタークスに入って間もない頃だったと思う
レノの相棒であるルードが珍しく切羽詰った声で俺を呼び止めた事は覚えてる
まぁ、その時には既に遅くて、レノの狂相に俺が息を詰めたのはその刹那後だった
あの時はルードがいたので直ぐに助けられたものの、レノの表情を見て
何となく「ああ、そういうことなのかな」と合点が行った

だから俺が彼に近付いたのでは、無かった
けれどフラリ、と現れた彼が何も言わずに殴る事が増えて
彼の目の焦点がグラリとしてやばいな、と思った次の瞬間には腹を殴られていた
痛い、とかやめろ、とか最初の頃こそ叫んで逃げ回ったけど
俺にはルードの様にレノを抑えるだけの力は無いし、
ツォンさんの様に上手く躱すだけの能力も無い、
スピードだってレノに敵わないから逃げる事さえ出来ない
何とも中途半端だなぁ、自分。そう思って思わず笑んでしまったら
レノは気に食わないといわんばかりに殴りつけてきた
そんな調子だったから抵抗するのは何時しか辞めて、俺は彼の感情の嵐が通り過ぎるのを待つ事にした
こうするのが一番俺も、彼も、楽なんだと気付けば俺には迷いは無かった
言うなれば、彼の暴力を受け止めるのは俺の中で義務になっていた
つまり、彼には俺を殴る権利が有った

お前はマゾヒストなのかと問われるとそれはちょっと困ってしまうのだが
殴られながらこんな事を考えていられる位には慣れてしまったのだろう

レノは昂ぶった感情を暴力として吐き出しきると、途端酷く悲しそうな顔をする
まるで子供が大事な宝物を壊してしまったかの様に
そんな時決まって俺は彼に笑いかけてやる
そうすると今度は母親の手の様に俺の痣に優しく触れ、出血した傷は舌で舐め上げられた
そのちぐはぐなレノの手が俺は怖くもあり、同時に嫌いにはなれなかった
だからその手から逃げない。
それでレノがやっと安堵した顔をするなら俺はそれでいいんだと信じている
「け、い、炯」
縋る様に、乞う様に、俺の名前を呼ぶのは好きだった
「レノ、大丈夫だよ」
俺がそう言ってあげるとレノはまた加減を知らない子供がするみたくぎゅうぎゅうと抱きしめる
これが本当に子供ならば精々ちょっと痛いかな程度なのだが、
この子供のまま大きくなってしまった様な大人がやるものだからちょっと痛いかな所じゃ済まない
苦しい。このまま息が停止してしまうと思う位苦しい
でもこの時俺はレノの表情が窺えないからいつもどんな顔して抱きしめるのか俺は知らない
もしかしたら、俺が思ってるような泣き出しそうな表情では無いのかも知れない
しかしこれも決まって抱きしめられているのは俺なのに反対の錯覚に陥るのだ


「なんで炯は黙って殴られるの」
少し神経質で優しい友達は言った
「なんであの人と一緒にいるの?」
あの時は俺の中に確かな答えが無かったから
なんとなく誤魔化していたけど
今、曖昧だった答えがちゃんと形を持って、
自分の言葉で説明できるまでになっても矢張り人には上手く言えないだろうと思う
自分の中で自分の言葉だから自分だけ納得してる。
究極の自己満足であるがどうしようもない


どうして俺だったのか、そういう事では無い
ただ俺と彼が出会ったから彼がそう歪んだだけなのかもしれない
そうなるべき運命で俺達が出会ったのなら幸せだっただろうか
惟、酷く我慢ならないのは俺と出会う前のレノがどうしていたのかという事
今、俺を殴る事でコントロール出来ない感情を吐き出している彼が
俺を得るまでどうやってコントロールしていたのかと思うと俺が胸が苦しくて仕方が無い
独りきりで、苦しんでいたのだとしたら
たった独りで戦っていたのだとしたら
誰も彼に笑いかけてなどくれずに居たのだとしたら、
それこそ堪えられない。彼が俺を苦しめるのはいい。
でも若し俺が居ない事で彼が苦しんでいたのだとしたら
自惚れでもいい、互いの重過ぎるまでの執着が気持ちいいとさえ思う

「だって、お前は笑うだろ」
彼は、何時だったかポツリ、と呟いた
何気ない日常の会話の中に埋め込まれて流されそうなたった一言を
俺がこんなにも明瞭に覚えているのはそれがピタリ、と嵌ったからだった

俺は泣き出しそうなレノを見ていつも罪悪感を覚える
そしてその時レノもまた俺に罪悪感を覚えている
だから俺はレノに笑いかける。
俺が笑って、レノが救われるから
だからレノは、幾らでも俺を傷つけていいんだよ
レノの罪悪感を利用して傍に居る俺なんて
俺なんかに同情の欠片もくれなくて、いいのに
互いに重過ぎるまでの後悔が心地いいとさえ思う

「俺がレノと一緒にいたい」

狂おしいまでの愛情も切ないまでの友情も要らなかった
惟、レノ、という人間の傍に俺が居たくて
俺、という人間をレノが必要とした
それだけ 
それだけのことだった

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多分でも私が目指すRRはこんなかんじww

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