tactics
『悪事千里を走る』とは言ったもので、出社してきたレノに容赦なく浴びせられる好奇の視線
(悪事、ねぇ。大概人は噂が好きなもんだ)
ふぅー、と溜め息を吐き、まるで王様のお通り状態でレノはズカズカとエントランスを闊歩する。
自然と開けていく道が気持ちいいやら気持ち悪いやらで、まぁいい気分では無い。
別に俺があの場所で女としていたなら噂にもならなかったかもしれない。
タークス二人が、それも男の炯を。それが人の好奇心の恰好の的になったわけだ、
(ここに何も知らない炯が来たら・・・最悪だな)
いつもより早足で通り過ぎようとしたレノの背中に声が届いた。
「レノっ!」
見事にセットされてしまった最悪のステージにレノは頭を抱える。
今此処で俺と炯が一緒に出勤でもすれば、更に脚色された噂が飛び交うに違いない。
レノはそう判断すると、脱兎の如くその場から走り去った。
「なんだ・・・・・?」
事態を理解していない炯はレノの行動も、周囲の視線も、訳が分からず困惑しつつ
遅刻にならないように駆け足で本部へと向かった。
どこに居ても他人からの視線を浴びるのが億劫になってきたレノはさっさと抜け出し屋上へ
ビルの屋上でチェインスモーカーと化していた。
そして溜まったイライラを開放しに来たのだった、のはずだった。
目の前の男が現れるまでは
「よう!レノ」
扉を勢い良く開いて飛び出してきた黒髪のソルジャーにレノは知らず知らず溜め息を吐いてしまう
これで余計にイライラが溜まるな、そう思うと溜め息の一つも出るというものだ。
「ザックス・・・・・」
「聞いたぜー?」
ニヤニヤと形容するのがぴったりな笑顔でザックスがレノに近付く。
その先の言わんとしてる事はもう読めている。
「お前と炯の夜のイカガワシイ行為」
「わかってるぞ、と」
「炯のヤラシー声が響いてたらしいじゃん、よくやるよなぁ」
もう何本目かも分からない煙草を吸って、紫煙を吐き出した。
足元に無数の煙草の吸殻が転がっているのに気付いたザックスがふーんと呟く
「へー、レノでも結構マイってんの?」
「うるせえぞ・・・、と」
軽く睨みつけてやれば、こえー、などとザックスが抜かしてケラケラ笑っている。
そもそも、見られてもいいと思って炯の口を塞がなかったのは自分なのだ。
勿論落ち着かないし気疲れさせられたにはさせられたのだが、こうして噂になってる事にマイってるわけじゃない。
「オマエラ付き合ってんの?」
そう、其れが俺をマイらせてる原因なんだ、レノは深く紫煙を吐き出した。
「ただのセフレ」
「そうなの?」
「女と違って、間違っても妊娠なんてしねぇし。テキトウに顔もよけりゃ良いんだよ」
楽な関係だ、そう言って少し俯き加減になったレノからは表情が読み取れなくて
ザックスは不満げに眉を顰めた。
「まー、炯が、ってのは意外だったけど」
「へぇ、アイツの事そんな風に見えないって?」
「だって、お前みたいに女の噂とかすら聞いたことなかったしさー」
「アイツは思ってるより性格悪いぞ、と」
「でも、好きだろ?」
何をもってか知らないが、確信してます的な物言いでザックスは言い放った。
コイツ、嫌な質問してくるな
レノはフン、と笑って出口へと向かう。
「どうかな」
「ちょ・・・レノ!逃げんな」
答えをはぐらかされたザックスの非難の声が後ろから聞こえるのも無視してレノは本部へと足を進めた
レノは昨晩炯にした問いと全く同じザックスの問いに苦笑する。
「好きだろ?」主語を無くして聞いたのは態とで、炯も「どうかな」とはぐらかした。
思ったよりも察しのいい炯はレノの質問の真意に気付いてたのだと思ってる。
本人達でさえ解らない事
他人が知る訳が無い
結局、問題は二人の間にだけ横たわっていて、周囲が何を言おうが何も変わらない。
本当に、らしくない。
あんなガキに
レノは自嘲的に口を吊り上げて本部への入り口へ消えていった。
「「あ」」
本部の廊下を進むレノと反対から歩いてくる炯が同時に声をあげた。
声を上げた場所から互いに動かずそのまま。
「レノ、説明しろ」
炯が腕組をして不遜な態度で言った。
「今日人の目が痛い理由と朝逃げた理由」
ぶす、とした表情の炯も結構イライラしているらしく足でコツコツと床を叩いている。
そりゃ、解らなくても気付くよなぁ。なんてぼんやりと思う。
炯の顔にどんどん皺が刻まれていくのに仕方なくレノは口を開いた。
「昨日の見られてた」
他に何を言わなくてもそれだけでもう解るだろう。
みるみるうちに炯の表情が険しくなっていく。
「めんどくせー、付き合ってると思われてるぞ、と」
「俺、用事あるから行くな?」
炯はそれだけ言ってレノを追い越した。
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